気付けば、君の腕の中。
凜くんが落ち着いた頃には、他の部活は既に終わりへと近づいていた。
今日は部室に行くのを諦めて、明日部長に鍵を返しに行こう。
のん気に考えていると、凜くんがあたしの腕を掴んだまま、顔を上げた。
「…ごめん、また抱きしめて」
「いいよ! ちょっと恥ずかしいけど…、でも凜くんがそれで落ち着いてくれるなら、全然構わないからっ…!」
へらりと笑えば、凜くんもまた口角を緩ませてくれた。
「折角だし…一緒に帰る?」
少し乱れた凜くんの髪を撫でると、こくりと一度頷いてくれる。
何だか幼い子供に懐かれた気分。
丁度鞄を持ってきていたし、そのまま玄関へ向かうと、靴箱に背中を預けた桃がいた。
「あっ…、坂木くん…と、絢華?」
ぱっちりとした桃の瞳があたしと凜くんを映す。
もしかして桃はずっと凜くんを待っていたのだろうか。
こんな寒い時期に手袋やマフラーをせずに、一人ぼっちで。