気付けば、君の腕の中。
お母さんが仕事を休んでくれたことに驚いたけど、あたしは笑顔で頷いた。
いつもは一人でご飯を食べていたのに、今日はお母さんがいる。
ただ、それだけのことが嬉しかった。
洗い物まで手伝ってくれたお母さんは、濡れた手をタオルで拭くと、玄関の鍵を握り締めた。
「…案内、よろしく頼むわよ。絢華」
「うん…! 任せてよ、お母さん!」
家の鍵を閉めると、お母さんと並んで歩いた。
あたしはおかずを詰め込んだお弁当箱を右手に持って、左手でケーキの入った箱を抱きしめた。
…普段、お母さんと一緒にいる時間は殆どなかったから、緊張するなあ…。
朝ご飯だって「美味しい」って褒めてくれた。
今はまだ泣くときじゃないと分かっていながらも、いつ涙が零れてもおかしくはなかった。