気付けば、君の腕の中。
あたしの手に持っている菓子折りに視線を向けて、首を横へ振った彼。
「で、でも…お母さんが渡して来いって言われて…。あ、無理にとは言ってなかったから、あたしが持ち帰るね。じゃあ…」
「あのさ」
その言葉に踏み出そうとした足を止める。
彼の少し長い前髪が風で揺れて、伏せ目がちな瞳が一瞬だけ見えた。
「…君の家族は、仲いいの?」
今にも泣きそうな声に聞こえて、あたしは目を見開かせた。
「…ごめん、何でもない。やっぱり菓子折り折角だから貰うよ」
「え、あ」
「じゃあ」
あたしが何かを言う前に、彼は扉を開けてガチャリと鍵を閉めてしまった。
強引に奪われた菓子折り。
一瞬だけ近づいた彼からは消毒液の匂いがした―。