気付けば、君の腕の中。
纏わりつくような視線を振り払って、少し古びたあたしの「帰る場所」に着くと、さっさと玄関を開けた。
「ただいまー…」
いつもの静けさを保った廊下に、あたしの声が響いた。
靴を脱いで、リビングに置いてあったエコバックとお財布を手にとって、もう一度玄関を出ようとした時―。
「…絢華、いたのか」
家の前に車を止めて、お父さんが両手を擦りながら近寄ってきた。
「アイツはどこ行った?」
「…え、と」
優しいお父さんの面影はどこにもいない。
乾ききった舌を動かしながら「会社だよ」と伝えた。
「…そうか。じゃあ絢華、お前に聞きたい。
アイツと父さん、どっちに着いて来る?」
じんわりと歪んだ視界の中で、お父さんは困ったように笑っていた。