気付けば、君の腕の中。
小学校を卒業するまで、父さんは家にいた。
母さんは俺が知っている限りだと、一度も笑った姿を見たことがない。
父さんは「浮気」ばかりするだらしない男で、本当は母さんのことなんて好きではなかったらしいのだ。
“らしい”というのは、母さんから聞かされた話で、父さんが本当はどう思っていたかなんて、今となっては聞けない。
中学1年生の頃、父さんが家を出て行った。
他に幸せにしたい女性と、子供が出来たと言っていた。
母さんは泣きもせず父さんを見送り、俺は今日も母さんのストレスをぶつけられるのかと思えば、早くこの場から逃げてしまいたいと思った。
生きる中で一番苦しいことは「孤独」だと、中学1年生の俺は知った。