気付けば、君の腕の中。
俺の伸ばした手のひらが、彼女を包み込んだ。
何度も女の子を抱き寄せてきたはずなのに、こんなにも温かいなんて知らなかった。
涙腺が緩む。
胸が圧迫されたように苦しい。
それなのに、彼女を抱きしめた途端、体中が溶けてしまいそうなほど、幸福感が溢れた。
何で俺を突き飛ばさないのだろう、とか。
こんな気持ちを知ってしまっては、後に引けなくなるのではないか、と心の中で恐怖が蝕んだが、それすらも振り払うほど、彼女の存在が俺を救い上げた。
あの時彼女に触れてから、俺は殻を破ったような気分になっていた。
…ああ、名前を聞きそびれてしまった。
少し残念に思いながらも、俺は母さんの怒声を無視して、ベッドに倒れこんだ。