気付けば、君の腕の中。


終業式を終えると、美術室に向かった。

ヤンチャな子達が遊び半分で汚した、絵の具塗れの扉を開ける。



もう既に生徒は教室にいるか、それとも帰宅したものだと思っていたから、彼の存在に驚かされた。

黒縁眼鏡をかけた男の子は、呆れ顔で振り返る。

彼の手にはあたしが置き忘れた絵の具と筆を握り締めていた。



新しく美術部の部長になった彼、辻 冬樹(つじ ふゆき)くん。



物静かな子で、滅多に口を開かないと有名な人だ。

けれど、実際は違う。



「…先輩、いい加減にしてくれません?

昨日には鍵を返すと言ってましたよね。で、僕は一人寒い中教室で待っていたと言うのに貴方は堂々と約束を破った…。

それが元部長である貴方の態度なんですか?」


…そう、結構な毒舌で怒ると怖いのだ。



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