気付けば、君の腕の中。
ごめんなさい、と後輩相手に頭を下げると、小さな声で「全く…次は…もう次もありませんけどいいですよ」と彼なりの優しさが見えた。
ホッと胸を撫で下ろして、用事も終わったことだし、帰ろうかと踵を返した。
「…絢華先輩、兄さんのこと…いいんですか?」
あたしの背中に向けて投げかけられた言葉に、ぴたりと足を止めた。
「…兄さん、あの日言ってました。
先輩のことは好きじゃなかったけれど、自分の恋を背中押しするために、涙を我慢していたって…。
酷いことをしたって悔やんでいましたよ」
冬樹くんは寂しそうな瞳で、恐らくあたしを見つめているんだろう。
振り返らなくても、雰囲気で伝わった。
だからあたしは心配させまいと、また不器用な笑みを浮かべて振り返る。
「もう…終わったことだし、冬樹くんのお兄さんに対して何も思ってないから」