気付けば、君の腕の中。
+ 寒くないのに震えた声
その日の夜、お母さんとお姉ちゃんのご飯を作って、一人食事とお風呂を済ませると、あたしは奈々美に電話をかけていた。
何となく、声が聞きたくなったのだ。
明日から理由がなければ、年を越すまで会えないのだから。
『もしもーし、なに? 絢華ってばもう寂しくなったの?』
「…はは、まあそんなところ」
『で? 今日の朝言いかけてたことは何だったのよ』
そのことはすっかり忘れていた。
えーと、とか、うーん、と誤魔化そうとするあたしに気付いたのか、奈々美は逃がさないと言わんばかりに『で?』と問い詰める。
「…今日の朝、月城が家前で待ち伏せてたの」
『ああ、…もしかしてお姉さん待ち?』
「うん…、もう何度も見た光景なのに、まだ傷ついちゃう自分がいて…」
『ふーん、そっか。じゃあ絢華、荷物まとめて今日はうちに来なさい!
あの転校生のことも色々聞きたいし!』
恐らく奈々美が一番気になっているのは、月城のことではなく、凜くんのことだ。
彼女の家に急遽お泊り、と言うのは今までに何回かあったので、今更遠慮するのも奈々美からすれば面倒だろう。
分かった、と返事をして通話を終えた。