気付けば、君の腕の中。
荷物をまとめると、誰もいない家の戸締りをチェックして、置手紙に「奈々美の家に泊まります」と一言書いておく。
コートを羽織り、慣れない黒いブーツを履いた後、リュックを背負って家を後にした。
奈々美の家は駅を二つ通り過ぎたところにある田舎町だ。
街灯が少ないのはかなり不気味さがあって怖いが、何度も行き来していれば慣れてくる。
そして立派な一戸建ての家前に着くと、奈々美に連絡を入れて、彼女が出てくるのを待った。
「あ、早いね! さすがは絢華!!」
「うん、もうお風呂とか入っちゃってたし、電車もタイミングよく来たから。
でも本当にいいの? 突然お泊りなんて」
「いいよいいよ! 今日はお父さんもお母さんも共働きの日でさー、一人寂しく過ごしてたから!」
奈々美はお風呂上がりなのか、寒そうな肩を出して、髪から水を滴らせていた。