乙女ゲームヒロインは悪役令嬢をお望みです!

「いくら私でも根拠もなしにこんな突拍子もないことを人に……いえ、ルイに言わないわ。あのね、攻略対象者は三人いるの。私もあなたも、よく知っている人──」


ダメね、手が震える。


言ってしまえば、それは本当のこととなる。

認めたくなくて、口に出したくないけれど、私が言わなければ助けてもらえない。

ルイが私の隣へ移動してきた。

震えた私の手にルイの手が重なる。


「貴女が言いたくないのなら、言わなくて良いんですよ?」


首を弱々しく振る。

それでも優しいルイの声に甘えてしまいそうになった。

ただ、私は許さない。

これからを思えば、話しておかないと後悔することは分かっているから。


ゆっくりとルイの手を離す。

軽く深呼吸をすると、落ち着いたような気がした。

ぬるくなってしまった紅茶に口をつける。

変わらぬ美味しさにズルさを感じた。


「ルイ、ワタシの記憶の中だとあなたはこの乙女ゲームの中にいなかったのよ」


名前すら出てこなかった彼に、私はどうすれば良いのか本当に分からなかったのだ。
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