雨の降る世界で私が愛したのは
その感情がどこから湧いてくるのかハル自身にも分からなかった。
死への恐れはなく、逆に安らぎを感じていた。
ただそこへ逝くのに絶対に一緒でないといけない何かが欠けているという喪失感があった。
遠ざかりそうになる意識に懸命に抵抗し思い出そうとしたが無駄だった。
人の声が聞こえたような気がしたがさっきの鳥の鳴き声だったのかも知れない。
最後に聞いたのは雨がジャングルを叩く音だった。
動物園の檻の中の生活はそれほど悲惨なものではない。
少なくともハルにとっては。
ハルがずっと言葉を発しなかったのは、自分の知性を隠すためではない。
そもそもハル自身自分が特別な存在だとは思っていない。
ハルは話す気力を失うほど絶望していた。
自分が今生きていることに対して。
命にかえてでも覚えてないといけないものをハルは失っていた。
ただ自分は生きている。
怒りさえ感じた。