雨の降る世界で私が愛したのは
そんなハルにとって檻の中での生活はちょうどよかった。
探さなくても食べ物と眠る場所を与えられ、身の危険を脅かす存在の心配がない生活はいろんなものを麻痺させていった。
飼いならされた多くの動物たちがそうであるように、いつしか自由に広い空を、海を、森を駆け抜けたいという衝動は枯れてしまう。
生きるために他の命を奪うという本能は、決まった時間に与えられる肉と同じに死んでしまう。
本来は激しい争いの果てにメス近づくことができるオスは次第に戦う本能を失っていく。
去勢、避妊された動物たちは自分の体に起こった変化に最初は戸惑いながらも、湧き上がる衝動を失ってしまったことにもいつしか慣れ、代わりに与えられた長い寿命をただ消費する。
こんなことを言う人間もいる。
病気のリスクが減り長生きできるのだから幸せだと。
ハルは不思議に思う。
なぜ人間はそんなにも長く生きたがるのだろう。