雨の降る世界で私が愛したのは


 重症のスタッフの容態を訊ねると、一時は危なかったがどうにか持ち直し今は安定していると聞きひとまずほっとする。

 さっき見た壁についた黒い血を思い出しながら、どういった傷なのか訊ねる。

 どんなふうにハルが人を襲ったのか知りたかった。

「頭部を強打しているみたいだ、出血もそこからある」

 あの血は頭から出たものだったのかと思うと、改めてぞっとした。

「あと肋骨が何本か折れてて打撲も数カ所」

 肉が裂けるような外傷がないらしいので、ハルは噛みついたのではなさそうだ。

 スタッフはハルにはね飛ばされたのではないだろうか?

 ゴリラの腕力はすごい。

 人一人など簡単にはね飛ばすことができる。

「回復してもいろいろ後遺症が残りそうな感じ。奴の男としての楽しみももう終わったかもな」

 こんなときにそんなことを言うなんて不謹慎だと思ったが、依吹のその言葉で怪我を負ったスタッフが男だと分かった。





< 185 / 361 >

この作品をシェア

pagetop