雨の降る世界で私が愛したのは


 一凛の話を熱心に聞いていたスタッフ達の顔をひとりひとり思い出す。

 あの中の誰なのだろう。

 そしてハルが襲ったのが女ではなく男でよかったと思ってしまう。

 どこかでどんな理由でもハルが人間の女性を傷つけたりしないと信じている自分がいた。

 ハルの手はそんなことをするためのものではないと。

 ハルの手は女性にやさしく触れるためのもので荒々しく傷つけるためのものではないと。

 一凛はまだ一度も触れたことのないハルの大きな手が自分の頭を優しく撫でるところを想像し、すぐに伊吹よりも不謹慎な自分を戒める。

 いったい自分はこんなときに何を考えているのだ。

「今どこにいるんだ?」

 依吹に訊ねられる。

 一凛はハルがどこにもいないこととスタッフたちのあからさまな対応を早口で伝えた。

 園長は依吹にも固く口を閉ざし、何があったのかを話そうとしないらしい。

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