雨の降る世界で私が愛したのは


「それに実は困ったことになってるんだ」

 動物園のゴリラが人を襲ったとマスコミが嗅ぎつけたらしく、すでに病院に記者たちがやって来始めているというのだ。

「そっちにももうマスコミが行ってるんじゃないか?」

 一凛はさっき事務所で鳴り響いていた電話を思い出す。

 正面門には来たときはいなかったバンが何台も止まっていて、依吹の言うとおりマスコミが押し寄せ始めていた。

 一凛は踵を返し裏門へ向かう。

「マスコミに捕まるなよ」

 依吹は一凛を心配していた。

 こういった事件が起こると一凛は専門家として意見を求められる。

 その動物はなぜ人を襲ったのか、原因は何なのか?

 今回もすぐに一凛にオファーがくるだろう。

 でも今回は少し状況が違う。

 一凛が依吹の動物園の調査に携わっていたことと、もしハルの移動計画を一凛が指示したものだと分かれば、事件の原因追求の矛先が動物園から一凛になりかねない。

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