雨の降る世界で私が愛したのは


 質問の嵐から身を守るように背を丸めた園長はとても小さく見えた。

 一凛の電話が鳴った。

 知らない番号だったがハルに関する電話だったらと通話を取った。

 どうやってか一凛のプライベートの番号を調べあげたマスコミ関係者からだった。

 コメントを求められたが今忙しいとやんわりとでもきっぱりと断り通話を切る。

 テレビ画面に視線を戻すと園長と依吹が報道陣をかきわけながら黒い車に乗り込むところだった。

 記者たちからは同じ質問が繰り返される。

 車には先に園長が乗り込みそのあとに依吹が続こうとしたが、依吹はくるりと報道陣の方に向き直ると深く一礼をした。

 一凛はごくりと唾を吞み込んだ。

 依吹が頭を下げているのは数秒だったがとても長い時間に感じた。

 依吹の動物園といってもそれは表向きだけで、事実上動物園の責任はすべて園長にあるはずだ。

 でもそれでは通用しないことは分かっている。


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