雨の降る世界で私が愛したのは
こういう問題が起きたとき、人々が見たいのは打ちひしがれ詫びる人の姿なのだ。
自分に関係なく被害者でもないのに無条件に頭を下げる惨めな姿を見て人は満足する。
走り去って行く車を映したあと画面はスタジオに戻り呑気な洗濯洗剤のコマーシャルになった。
一凛はテレビを消した。
園長や依吹が矢面に立たされているのに自分一人がこの部屋に隠れていていいのだろうか。
ハルの移動計画を指示したのは自分なのだ。
動物園のスタッフの様子から動物園側には隠したい何かがあるのは明らかだが、それも含めて自分にも責任があるのではないだろうか?
ハルの移動に承諾したことが今更ながら悔やまれて仕方なかった。
ハルは普通のゴリラとは違うのだ。
野生の中ではまだしも、狭い檻の中で他の普通のゴリラたちと生活するのは無理だったのだ。
ふとメスのゴリラの瞳が脳裏をよぎった。
違う。
ハルは他のゴリラと何かがあったのではない。