雨の降る世界で私が愛したのは
実際一人で部屋にいるよりもずっとましだった。
気を紛らわせるものがないと物事を悪い方にばかり考えてしまう。
一凛もほのかの言うように数週間もすれば騒ぎはおさまるとどこかで楽観視しているところがあった。
でも事態は急変した。
容態を持ち直したはずの飼育スタッフの男が死んだのだ。
事件が起きてから三日目のことだった。
久しくゴリラやオランウータンが騒ぎを起こす事件がなかっただけに世間は騒然となった。
運悪くというか他にマスコミが飛びつきそうな目立った事件がなかっただけにテレビのワイドショーはこぞって特集を組んだ。
一凛にはテレビやラジオ番組出演のオファーが殺到した。
すべての仕事を断り続けることもできず、ファックスで簡単なコメントを返したり、電話出演などで対応した。
「ゴリラは理由なく人を襲ったりはしません。それはすべての動物において言えることです」