雨の降る世界で私が愛したのは


 面白がったマスコミは一凛とその専門家を討論させる特集番組を作ろうと言ってきた。

『もうやめておけ一凛』

 伊吹が電話口で言った。

 事件が起きてからハルに会いに動物園に行くどころではなかった。

 依吹とも電話で話すのがやっとだった。

「伊吹このまま黙ってハルを見殺しにしろって言うの?」

 園長は相変らず固く口を閉ざしたまま真相を語ろうとしない。

『騒げば騒ぐほどハルは窮地に追い込まれる』

 もはや真相など分かったところで同じだった。

「じゃあ騒がなければハルは救われるの?どうやったら分かってもらえるの?」

 一凛に敵対する専門家が先導し世間は一凛のアニマルサイコロジストとしての地位を傷つけることに躍起になり始めていた。

『今じゃない、今一凛が完全に潰されてしまったら一体誰かハルを救うことができるんだ』

 それでもいても立ってもいられない一凛は依吹から園長の自宅を聞き出し、夜中にタクシーを飛ばした。

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