雨の降る世界で私が愛したのは
ハルが収容されていたという舎監の前で依吹はポケットからタバコを取り出し火をつけた。
主のいない舎監の扉は開かれたままになっている。
ハルが脱走したと知らせが来たとき、依吹は一凛の仕業だとすぐに分かった。
案の定一凛にいくら電話しても応答がない。
この扉を開けたのは一凛なのだ。
ゆすると鉄格子の扉は軋んだ音を立てた。
園長は、なんてことだ、なんてことだと頭を抱える。
そんな園長をどうにかなだめたのはいいものも、これからどうしたものかとため息をつきそうになってやめた。
ため息をつくと問題が重みを増すような気がする。
ハルがいなくなったことでほとんどのスタッフが緊迫した雰囲気の中、わずかに嬉しそうにしている者が何人かいた。
不思議に思った依吹がそれとなく声をかけると彼らはゴリラの檻を担当していたスタッフ達だった。
その中で決して依吹と目を合わせようとしない小柄な女性スタッフに依吹は優しく声をかける。
「もうそろそろほんとうの事を教えてほしいな。でないと解決策を考えようにも考えられないじゃないか」
自分を見上げるスタッフと目が合う。
大きなアーモンド型の目。
子どもの頃の一凛に似ていると伊吹は思った。