雨の降る世界で私が愛したのは


 バンを返しに行くのと一緒に部屋を借りるための資金と当面必要そうな現金をまとめて引き出した。

 そこから一人で電車に乗ってこの町に戻ってきた。

 バンを借りた町とこの町は充分離れていた。

 一連のことが済むまでハルは遊ぶ子どものほとんどいない公園のトイレに隠れていた。

 部屋で過ごした初めての夜、一凛はハルから真実を聞いた。

 一凛の思った通りだった。




 


 アパートの前で一凛は暗い部屋の窓を見上げる。

 夜でも灯りは一凛が部屋にいる時だけにしている。

 万が一外から見てハルの影が映ったり、または一凛が部屋にいると思って誰かに訪ねられたりしたら困る。

 階段を軋ませて二階に上がり一番奥の部屋のドアを開ける。

「ハル」

 扉をしっかりと閉めてから名前を呼んだ。

 暗がりの中でゆらりと大きな影が揺れる。

 厚手のカーテンがきっちりと引かれているのを確認してから一凛は部屋の電気をつけた。



< 229 / 361 >

この作品をシェア

pagetop