雨の降る世界で私が愛したのは


 人々が言う正しい愛から大きく外れた者たちの愛は異常だとか倒錯だとかの烙印を押され闇に葬り去られるしかないのか。

 正しい愛だけがそんなに尊いのか。

 自分以外を愛おしく思うという気持ちは同じなのに。

 目に見えないものをどうやって間違っていると決めつけることができるのだ。

 ハル、誰よりもあなたが好き。

 一凛がハルを抱きしめるとハルはそれに応えるように一凛を抱きしめ返す。

 二人は言葉を交わす代わりにお互いの体を触れ合い想いを確かめた。

 優しく愛撫するように撫でたり、ときには苦しくなるくらい強く抱きしめたり、その行為は言葉よりも深くお互いの想いを伝えた。

 言葉にするのが怖かったのかも知れない。

 言葉にしたとたん、千本の矢が二人に向かって飛んでくるように思えた。

 部屋の灯りを消す。

 窓の外の夜より濃い闇の中で二人は抱き合った。

 激しい雨音が一凛のため息を掻き消す。


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