雨の降る世界で私が愛したのは
下腹の鈍い痛みで目が覚めた。
堕ちたはずの世界は何も変わらなかった。
色も匂いもすべてが同じだった。
希望の破片が散らばった世界だった。
それはより残酷に思えた。
世界の果てまで逃げても自分たちは希望など掴むことはできないのに。
ならばいっそそんなものが存在しない闇の世界に堕ちたほうがどんなに楽か。
たった一つの裸電球に浴室がぼんやりと照らされる。
浴室の窓からは雨の音が大きく聞こえてきた。
ジョリ、ジョリ、ジョリ。
ざらついた音を立てて剃刀を滑らせる。
黒い毛の塊がふさりと落ちる。
すでに足元は真っ黒な毛で埋め尽くされていた。
「痛くない?寒くない?」
一凛は何度もハルの背中に訊ねた。
ハルはその度にわずかに頭を左右に振った。
何度も剃刀を当てられた肌はところどころ血が滲み、赤く腫れている。