雨の降る世界で私が愛したのは
毎晩雨のなか散歩に出かけた。
雷が鳴る夜はずっと空を眺めた。
「きれいね」
一凛はため息混じりに言う。
「子どもの頃ね、こうやって誰かと一緒に雷を眺めるのが夢だったの。ロマンチックでしょ」
一凛は自分の頭をハルにもたせかける。
幸せだと思った。
この時間がいつまで続くのか分からない限られた短い時間だとしても、今こうしてハルの隣で白く光る稲妻を眺める。
隔てる檻がないところでこうやって寄り添い合える。
この瞬間をずっと覚えておこう、匂いまですべてを。
一凛はゆっくりと深呼吸をした。
その唇にハルが触れる。
一凛は目を閉じて両腕をハルに回した。
ハルが力を入れて抱きしめる。
とそのとき脳裏の端で何かがきらめいた。
「あ、また」
一凛はつぶやく。
ハルに触れている時、一凛は度々不思議な感覚に陥った。
それは今みたいに強い光を感じることもあれば、嗅いだことのない匂いの風を肌に感じたりもしたし、遠くに聞こえる透き通った鳥の声だったりもした。
一番多いのは眩い光だった。
一凛が今まで見たこのない強い光だった。