雨の降る世界で私が愛したのは


「そう言うものが存在する世界があると聞いたことがある」

 ハルは言った。

「そういうものって?」

「雨雲の向こうに大きな光の玉が浮いていて直視できないほど眩しいそれが世界の中心だそうだ。そしてその世界はこんな風にいつも雨が降っていないと」

「雨が降らない世界?」

 驚きだった。

 一凛は想像する。

 乾いた風が吹き眩い強い光が頭上を照らす世界を。

「きっと素晴らしい世界ね」

 ああ、とハルは頷き「少なくともこの世界よりいいところに違いない」と一凛を抱く腕に力を込めた。

「その世界だったら、わたし達は逃げなくてもいいのかな。ハルのことみんな分かってくれるのかな。人と動物は平等なのかな」

 ハルは黙って一凛にしゃべらせた。

「その世界はわたしが望むような世界なのかな。檻なんかなくて動物も人と同じ権利と自由を持って生きられるのかな。誰が一番賢いとかなくて、こんな風に人間の作るルールが当たり前のルールじゃなくて、人以外の動物がもっと幸せな世界なのかな」




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