雨の降る世界で私が愛したのは


「ハルただいま」

 一凛は部屋にいる自分の姿を見つけるとほっとした顔をする。

 その顔を見ると今晩までここにいて居てよかったと少しだけ思えた。

「ごめんなさいね、いつもこんなもので。果物は高くて」

 皿に盛った野菜の切れ端を一凛は申し訳なさそうに差し出す。

 ハルはその皿を取り床に置くと一凛の腕を取ってその軀を自分に引き寄せた。

 自分の欲望を呪った。

 誰でもいい、今、自分を後ろから撃ち抜いて欲しいと思った。

 いやそれだけでは足りない。

 自分は何度殺されても殺され足りない罪を犯している。

 自分が人として生まれなかったがために。




 仕入れの野菜を買い終え果物屋の前を通り過ぎようとして一凛は立ち止まる。

 バナナが一ざる百円で売られていた。

 ハルに買って行ってあげようか。

 店の前で立ち止まった一凛を見つけた店番が声をかけてきた。

 一凛はとっさにその場を離れたが引き返してくるとバナナを一ざる買った。






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