【完】麗人、月の姫
「食器お下げいたします」
「ありがとうございます……!」
まだあまり会ったことはないが、この城にはたくさんの使用人が働いているらしい。
「おい。食べたか?」
私が座布団から立ち上がり襖を開けようとしたとき、ちょうど食事処に透真くんが姿を現した。
「今食べ終えたところだよ」
「なら、行くぞ」
前を歩く透真くんに必死についていく。
城が広いものだからまだ位置を把握できておらず、一歩間違ったら迷子になってしまいそう。
「やはりこの城には麗人の力が必要らしいな」
急に透真くんはポツリと呟いた。
「え?」
「麗人がいなくなってからこの国は結構経つんだ。気づいたときから俺はずっと城の姿見てきたが、本来の姿はこんなにも美しかったんだと思った」
確か蓮さんたちは、麗人の使者であり、力を与えられた護衛人だと言っていた。
昔からの使命で、生まれたときからずっとこの城だけを護り続けてきたってわけだよね。
「この国には月の光ではないと生きられないやつらがたくさん住んでいる。だが、元は違う惑星から移り住んだとも言われており、各自住みやすいとこに移った結果、陰人、麗人、陽人がそれぞれ住む国になったとも言われている」
「……………?」
「つまり、俺らは月人と呼ばれてはいるが実際はどうなんだろうな。どこから来て、どのようにこの惑星を見つけたのか。そういった書物がないから分かんねぇんだよ。…………………まぁ、ふと気になったことだから気にするな」
そんなこと言われたら色々と気になっちゃうに決まってるじゃん…………。
途中からだけど、一緒のクラスで過ごしてきたのに、私透真くんのこと何も知らない。
「ご両親は?」
「俺がまだ幼い頃に亡くなった。物心ついたときには蓮兄や幸兄と一緒にこの城の使者になるべく修行をしていたし、親の顔もあんまり覚えてない」
子供の頃から…………修行をしていたのね。
私が透真くんと同じ年の頃は、お母さんと一緒にいれることが普通だと思っていたけど、本当は違う。
親の愛も知れずに、前触れもなく別れる親子だっている。
透真くんは幼い頃に両親を亡くした為、どんな人だったのかも分からない。
ただ、物心ついたときにはこの城で修行をし、城を護る為に頑張っていた。
なんか、切ない…………。
「ちょっと、しんみりしないでくれる?」
「あ、ごめん…………」
「俺に取ったら普通のことだし。蓮兄と幸兄の両親は一応この城にいるけど、そういえば最近見てないなぁ」
あれ?
「透真くんのお兄さんじゃないの?」
名前のあとに『兄』って付けてるし、まるで兄弟のようなのに………。
「俺ら3人は本当の兄弟じゃない。ただ、ずっと一緒に育ったから、俺は敬意と親しみを込めて兄と呼んでいるだけだ」
そうだったんだ……………!
ずっと、3人とも兄弟だと思ってた。