記憶の中の記憶
「賢人も、行きましょう。良人の病室。」

お母さんと賢人が、一斉に私を見る。

「きっと良人は、賢人に会いたがってるわ。」

驚いた顔を、賢人はしていたけれど、決して嘘なんかじゃない。

いつも笑顔で賢人の事を話していた良人は、誰よりも賢人の事を大好きで、誰よりも賢人を頼っていた。

婚約者の私なんかよりも、強い絆で。


「そうね。賢人も来て頂戴。」

お母さんも、私の提案にのってくれた。

「……いいのかよ。目覚めたばっかなのに。」

「何言ってるの。家族でしょ。目が覚めた時居なくてどうするの?」

お母さんに促され、賢人はようやく重い足を、動かした。

「賢人……」

賢人と目が合う。

私はもう一度だけ、手を伸ばした。

でも賢人は私の前を、スーっと通り過ぎ、私の伸ばした手には気づかない。

伸ばした手は宙を浮き、さ迷ったけれど、諦めて私の足の脇に収まった。
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