記憶の中の記憶
「えっ……」

言いたい事は、山ほどあるのに。

聞きたい事も、山ほどあるのに。

良人の前では、何もできない。

「じゃあ、良人。珠姫も後で。」

「あっ、賢人!」

「ホント、遠慮なく連絡して。」

手を挙げて挨拶して、賢人は病室を出て行った。


呆然としながら、その様子を見ていた私を、良人が見逃すはずがなかった。

「珠姫。」

「なに?良人。」

人工呼吸器を着けている良人に、顔を近づけた。

「……賢人、珠姫の事……呼び捨てに……してた……」

「ああ……」

咄嗟に、目が覚めたばかりの良人に、心配をかけてはダメだと思った。

「いつの間にかね。良人の真似、したのかしら。」

「あいつ……らしい……」

うっすら笑みを浮かべた良人を見て、私は安心した。

「珠姫も……」

「ん?」

「……賢人って……呼んでいた……」

一瞬、呼吸を忘れてしまったかと思った。
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