記憶の中の記憶
「そんな風に、賢人を接している中で、もしかしたら、お互い姉弟みたいな、気持ちになったのかな。」

「そう……か……だったら……いいなぁ……」

私の手を、握り返した良人。

私を信じている良人。

その腕に光る、誕生日の時に贈った、ペアの腕時計。

何年も前になるのに、未だにつけていてくれる。


「良人。私、事故で腕時計、失くしてしまったかも。」

「また……買えば……いいよ……。」

「うん。」

良人は、賢人と同じように、優しい。


だったら、私はなぜ、良人を好きになったんだろう。

良人のどこに、惹かれたんだろう。

先に賢人に出会っていたら?

私は、賢人を選んでいた?


でも、情けない事に、私はその答えが出ない。

記憶を失っていた間、私はもう一つの恋愛をしていたとしか、理由は片付かない。


「良人。また、明日来るね。」

「ああ……待ってるよ。」

私は良人の手を、そっと離した。
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