記憶の中の記憶
「市田さんですか?どのくらいでしたかね……松葉杖を着いて歩けるようになるまで、1ヶ月。それから、松葉杖を使わなくなるまで、1ヶ月。計2ヶ月ってとこですかね。」

先生がそう言うと、良人は止せばいいのに、両手を上に挙げた。

「よし!珠姫の記録を抜くぞ~!」

みんなに聞こえるように、大きな声。

「ちょっと!良人、声が大きい!」

私は思わず、良人の口を塞いだ。

「あっはははは!」

そんな私を、良人は本当に面白そうに、笑った。

良人は、あまり常識外と言うか、ヤンチャな事はしない人だったのにな。


「そう言えば、今日の朝、賢人が来たよ。」

「賢人が?」

全く動じない振りをして、心臓だけが、ドキドキしている。

「今は、実家で暮らしてるよ。」

まるで、少し前まで私と同じ家で、暮らしている事を、知っているような、口のききかただった。
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