記憶の中の記憶
「賢人も、私達の息子なの。二人とも、幸せになってほしいのよ。後は、あなたが十分悩んで、決めて頂戴。」

そんな、意味深な言葉を残して、お母さんは病室の中に、入って言ってしまった。


良人は、私の気持ちをお母さんに、伝えたんだと分かった。

私は、しばらくドアの隙間から、良人を見続けた。


好きだった人。

一度は結婚を、考えた人。

大事だった。

大切にしたかった。

それも全て、過去の事だと知った。

私はゆっくりと、病室を後にした。


下の階に降りると、そこは私が通った、リハビリ教室があった。

今は良人も、通っている。

立ち止まっていると、中からトレーナーが、出てきた。

「ああ、市田さん。」

「こんにちは。」

この前の喧嘩の件があってから、恥ずかしくて、何となく会う事を避けていた。

「そうだ。一つお聞きしたい事が、あるんです。」

「何でしょう。」
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