記憶の中の記憶
「あっ、今のうちトイレ、行っておかなきゃ。」

賢人がいる時に、トイレに行きたいって言うのも、まだ恥ずかしい。

しかも賢人は、一人でトイレに行けるって言っているのに、一緒に付いて来て、女子トイレにまで入りそうな勢いなのだ。

それで、何度恥ずかしい思いをしたか。

これも、私のワガママの一つなんだけどね。


松葉杖を着きながら、トイレに行き、賢人が帰ってくるまでに、ベッドに戻らなければと奮闘しているところ。

私の病室の前に、一組の夫婦が立ち止まっていた。

同じ病室の患者さんの、お見舞いかなと思った私は、そのまま『こんにちは。』と挨拶をし、中に入ろうとした。

「……珠姫さん!?」

ご夫婦の奥さんの方が、私を見て、オロオロし始めた。

「はい?」
< 28 / 146 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop