記憶の中の記憶
「あなたは、何て名前なの?」

「名前?賢人(ケント)だよ。知ってるくせに。」

「私は?」

一瞬、驚く彼。

「市田珠姫でしょ。何の冗談?」


私は手で、顔を覆った。

「分からないの……何も………」

「えっ?」

賢人と名乗った人は、椅子に座って私を見た。


「年は?」

私は首を、横に振った。

「住んでいる場所は?」

また、首を横に振った。

「……事故に遭った時の事は、一瞬で分からないと思うけど、さすがに事故に遭う前は、何をしていたか分かるでしょ?」

「分からないよ!」

私は痛い頭を抱え込むように、布団を被った。


「何も、覚えてないの?」

「覚えてないって、言ったでしょう!」
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