記憶の中の記憶
「賢人にも、止められてるだろう。」

「そう、だったわね。」

お母さんは一度俯いたけれど、顔を上げた時には、笑顔に戻っていた。

「じゃあね、珠姫さん。また来るわ。」

「はい。いらっしゃって頂いて、有り難うございました。」

私は、できるだけ頭を下げた。

お父さんが手を上げて、二人は病院の廊下を、奥の方へと歩いて行った。


もう、余計な詮索は止めよう。

賢人は、賢人なんだから。

私が病室に戻りベッドに座ると、ちょうど賢人が、病室へと戻って来た。

「お帰り、賢人。」

「ああ。」


浮かない顔。

「何か、あった?」

「ん?何でもないよ。」

作り笑い。

婚約者だって言うのに、何かあっても、話してくれない。
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