記憶の中の記憶
第2章 生い立ち
入院してから1ヵ月。

松葉杖を付きながらも、日常生活を送れるようになった私は、主治医の先生から、退院を告げられた。


「怪我の方は、回復しておりますので、通院でのリハビリに切り替えてもいいと思います。」

「通院……ですか?」

それは本来であれば、嬉しい事なのだろうが、今の私には、不安しかなかった。

記憶の方はまだ何も、戻ってはいなかったからだ。

「先生、私……まだ記憶が戻っていないんです。」


診察室の中、先生がカルテを書きながら、何気なく聞いてきた。

「なにか、思い出しましたか?」

「いえ……何も……」

「事故の事は?」

「……思い出せません。」

「事故に遭う以前の生活は?」

「思い出せません。周囲からはいろいろ聞いて、自分の事はどんどん知っていきますが、ああ、そうだったと一致する記憶がないんです。」
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