記憶の中の記憶
「日常生活を送れるようになったから、退院しましょうって言われた。リハビリは通院でもできるしって。」

「それはよかった。珠姫が退院したら、僕も仕事に戻れるからね。」

生き生きと話す賢人に、また靄がかかる。


「それとね……もう少し、入院を延ばす事もできますよって……言われた。」

賢人は、動きを止めて、私を見る。

「そうなの?」

私は思いきって、先生に言われた通り、言葉にした。

「私は……身よりがないから、退院を延ばす事もできるんだって。ねえ、本当なの?」

私が賢人を見つめるのと同時に、賢人は私を見る事を止めた。


「……本当なんだね。」

私は、白い掛布団に、目線を落とした。

少し前に、賢人のご両親に会った時。

私にも当たり前に、両親がいるんだと思っていた。
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