記憶の中の記憶
「ねえ、賢人。」

「ん?」

「私、退院して自分の家から、リハビリに通おうかしら。」

賢人は驚いて、反対するかと思っていた。

「いいね。前に進もうとしているね。」

笑顔で、私の思いを受け止めてくれた。


「朝、僕が出勤する時に、病院まで送ってあげるよ。リハビリが終わったら、僕が迎えに来るまで、病院で待っていられる?」

「賢人が終わるまで?リハビリって、そんなに時間は掛からないわよ。いいわ。自分で帰る。」

呆れたように答えたのに、賢人はそれでも、笑っていた。

「それにしたって、退院したらご飯は?お風呂は?一人で服着替えられる?あっ、髪乾かしたりとか。」

今度は、私が笑った。

「退院しても、私の髪を乾かすの?」

「ダメ?これでも、結構慣れたよ?」

「心配性だね。」

「そりゃあ、そうなるよ。入院中は僕の仕事だったからね。本当に珠姫一人でできるかどうか、今から心配だよ。」
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