記憶の中の記憶
「私の職業は、分かりますか?」

「……お医者さんです。」

先生は微笑みながら、次の質問をした。

「ご自分のお名前を、教えて下さい。」

看護士さんからカルテを受け取って、先生は私を見た。

「……分かりません。」

先生が看護士さんと、目を合わせる。

「覚えていないみたいなんです。」

賢人と言う人が、代わりに答えた。


「あなたは?」

「僕は……」

彼は私を見つめながら、こう言った。

「僕は、彼女の恋人です。」


恋人?

この人が、私の?


その瞬間、頭に痛みが走った。

「分かりました。明日、詳しい検査をしましょう。」

先生のその言葉で、私の1日目は終わった。
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