記憶の中の記憶
それから毎日、お昼頃にタクシーを利用しながら、病院に行ってリハビリをし。

夕方、賢人の車で借家に帰ってきて、夕飯をご馳走し。

しばらくテレビを一緒に観た後、二人でお風呂に入り、賢人に髪を乾かしてもらう。

その後、賢人は車で自分の家に帰る毎日を、送っていた。


「泊まって行けばいいのに。」

「うん。そうしたいんだけど……」

賢人は眠い目を擦りながら、車の鍵を持つ。

「今、実家も大変なんだ。もうしばらくしたら、落ち着くと思うから。そうしたら泊まっていこうかな。」

そう言って、どんなに遅い時間になっても、賢人は家に帰って行った。


“実家も大変だから”

私の脳裏に、あのご両親の顔が浮かぶ。

人は見かけによらず、闇を抱えている事が多い。

私だってそうだ。

こんなに元気になっても、未だに事故前の記憶は、戻っておらず。

ふと、自分は何者なのだろうと、ふぁーっと風に飛んでいきそうになる。
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