ある雪の降る日私は運命の恋をする‐after story‐
それからは、大変だった。

その日は、朝になるまで、ずっと泣き倒した。

"死"への恐怖というよりは

生きられない事の悲しさ

もう、この世にいられるタイムリミットが近づいていると知らされた時の絶望感

もうすぐ…消えてしまうという事実

胸がギュッと押し潰されそうになった。

死んじゃったら、当たり前だけど、もう、生きれないんだ。

喋れないんだ。

見ること、触ること……以前に、動くことも出来ないんだ……

誰かに会うことも出来ない……

会話出来ない…………

その姿を見ることすら許されない……

楓摩に会えない

葉月と柚月に会えない

2人を可愛がってあげることも出来ない

喜ばせてあげることも出来ない

お世話してあげることも出来ない

成長も見れない

家族でいられない

この世にいないってことは、私が今出来ている全ての事が出来ないんだ。

泣くことも許されない。

例え、感情だけが残っていたとしても、誰にも見つけてもらえない。

楓摩に抱きしめてもらえない

2人を抱きしめてあげられない

私の存在は…………消えちゃうんだ……

"私"というものが消える。

"清水 朱鳥"という人間が消滅する。

自分では、抗いようのないこの運命に、絶望した。

自分の手を見て、何度も握ってみた。

"今、生きているよ"

って、感じがした。

…でも、三ヶ月後には…………というか、もって三ヶ月って事は、それ以上前に死んじゃう可能性もあるのか……

嫌だな……

死にたくないな…………

まだ、やりたい事沢山あるのに…

まだ、何も出来ていないのに……

自分の中で、楓摩と出会うまでの人生は、死んでいたようなモノ。

楓摩と出会って、結婚して、やっと来た幸せ。

"どうせ死ぬ"

とか言っておいて、心のどこかでは、"まあ、今回も治るよね"って思ってた。

"幸せ"な日々はまた来てくれるって信じていた……

もちろん、今が幸せじゃない訳じゃない……

ただ、病院に縛り付けられて、何も出来ない、弱い自分のまま死んでいくと思うと、とても虚しくなった。

…せめて、死ぬなら、自分の家で死にたいな…………

とか、そんな事を考えていると、いつの間にか、日はとっくに超えていて、それを知って

"あ、一日が終わった"

って

あと何日なんだろう…………

って、少しだけ怖くなった……

…でも、同時に、この涙は、楓摩には見せないって決めたんだ。

…………最後の最後くらい、笑顔でいたいもんね。

少しでも、楓摩に笑っていてほしいもん…

少しでも…………この世に…"私が生きていた"という証拠を残したい……
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