ある雪の降る日私は運命の恋をする‐after story‐

トラウマ

「いやあっ!!!……いやっ、来ないでっ!!」

急いで朱鳥の病室へ向かうと、そこは少し驚く光景だった。

身の回りのものが散乱し、シーツや枕も床の上、さらには、点滴台までもが倒れていた。

ベッドの上では、耳を塞いで取り乱している朱鳥がいた。

……ここまで取り乱したのは初めてかもしれない…

というくらい、酷い。

俺は、とりあえず、そっと朱鳥に近づいた。

「朱鳥……」

「嫌っ!!!!…やめて!!来ないでっ!!」

そう言って朱鳥は、ベッドサイドの棚の上にあるものを投げつけてくる。

「朱鳥、落ち着いて。大丈夫だよ。楓摩だよ、楓摩。大丈夫、怖くないよ。」

「やだっ!!やだっ!!!!!」

俺の声も、取り乱している朱鳥には届いていないみたい…

無理やり抑えつけたら、もっと恐怖を植え付けちゃうよね……

でも、ここは少し無理やりでも、抱きしめてあげた方が、現実と夢との境目がわかるかもしれない。

「朱鳥、ちょっとごめんね」

俺は、そう言って、無理やりだけど、暴れる朱鳥を強く抱きしめた。

「いやぁぁぁぁっ!!やだっ!!!やめてっ!!!!お願い!!やめてっ!!!!!」

「朱鳥、大丈夫。大丈夫。楓摩だよ。楓摩。落ち着いて。」

抱きしめて、背中を撫でながら、朱鳥の耳元でそう囁く。

すると、暴れていた朱鳥も、少しずつ動きが収まってくる。

俺は、目で久翔に合図を送った。

久翔はコクリと頷いて、朱鳥に気づかれないように、後ろから安定剤を打った。

「やっ!!!!!」

「大丈夫。大丈夫だよ。怖くないからね。」

そう言って、背中をポンポンとし続ける。

そうやっていると、朱鳥は動こうとするのをやめ、代わりに沢山泣き始めた。

それを見てか、周りでは看護師さん達が、散らかしてしまった物を片付けていく。

「朱鳥、俺、楓摩だよ。わかる?」

コクン

「うん。偉いね。怖い夢見ちゃったんだって?」

コクン

「そっか、そっか。前に言ってたね、最近よく怖い夢見るって。…日本に戻ってきてからも見る?」

「………………少し…」

今にも消え入りそうな声。

「そうなんだね……。まぁ、でも今日はそれ考えると辛いし、もう夜だから、寝よう?夢見ないように、強めの睡眠剤使おうか?」

……コクン

「わかった。じゃあ、今持ってきてもらおうね。俺は、ずっとここにいるから安心していいよ。」

コクン

俺は、また久翔に目線を送ると、久翔は"了解"というように、小さく頷いてから薬を取りに行ってくれた。

その間、俺はずっと朱鳥を抱きしめ続ける。

安定剤のおかげで、涙も少し落ち着いたものの、まだ少し体が震えている。

それに、まだ明らかに、目には恐怖が浮かんでいた。

俺は、そんな朱鳥を見ているのが辛かった……

胸が締め付けられる。

「大丈夫だからね…大丈夫……」

そう何度も繰り返して、朱鳥の背中や頭を撫でる。

少しでも朱鳥が辛くないようにしたい……その一心だった。
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