TONE ~シークレットライブ~
 静まり返った空間に響く、スローテンポのリズム。

 マイクが拾ったマキの声は透明感のある切ない声。

 蒸し暑い夏のはずなのに、会場の雰囲気は冬の夜。

 サビの部分に入った時、聞こえてきたもうひとつの音。

 マキ自身も驚いたように視線を動かす。

 客席からは音の主は全く見えないのだが。

 私は誰だか判った。

 聞こえてきたのが、バイオリンの音だったから。

 雪が降り積もる銀世界の幻想が見える気がした。

 ユウがマキと視線が合って笑みを見せる。

『だって、お礼でしょ』

と聞こえないけど口の動きでそう言った気がした。

 それで思い出した。

 花束と封筒を持ったグラサンの怪しいお兄さん。

 あれはマキ自身だったんだ。

 静かな空間にバイオリンの音が響いていた。

 音が消えても静まり返った会場。

 余韻に浸りたい気分。

 なんだなんだ、目がにじむ。

 でも割れんばかりの拍手が起こると私も必死に手を叩いていた。
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