ペチュニアの恋文
その様子を暫く無言で眺めていた母が、不意に何気なく口を開いた。

「そう言えば、今年も届くのかね?例の彼からのバースディプレゼント」

「ほえっ?」

突然の母の思わぬ言葉に、咄嗟に変な声が出てしまった。

「なっ…何っ?急に…っ…」

「だって、何だかんだで毎年貰ってるんでしょ?遠くへ引っ越しても遥の誕生日だけは忘れないでいてくれてるなんて、律儀で健気[けなげ]じゃない」

「そう…だね」

確かに、ありがたいことだとは思う。


誕生日に毎年届く、ユウくんからのバースディカード。

時には花束が添えられたりしていたこともあった。


(でも、半分は私が催促してしまったようなものなんだよね…)

今思えば、我ながら恥ずかしい話だ。


引っ越しすることになったという話をユウくんから聞いたのは、ちょうど7年前の私の誕生日だった。

両親が離婚したこともあり、『別れ』という言葉に敏感になっていた私は、あまりに突然の話に悲しくて、その場で泣き出してしまった。

その頃には既に蒼くんも公園に姿を見せなくなっていたので、ユウくんまでいなくなってしまうと聞いて、たまらなく寂しかったのだ。

泣いている私を慰めるように、ユウくんは「必ず帰ってくるから」と念を押した。それが『私の16歳の誕生日に会おう』という約束に繋がるのだけれど。

けれど、当時は7年後の話をされても私には遠い未来のことのようにしか思えなくて。
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