ペチュニアの恋文
情けないことに、駄々をこねた。

「そんなに先のことなんて分からないよ。きっと、私のことなんか忘れちゃうんだ」

そんなことを言って…。

きっと、ユウくんを困らせた。

引っ越しは家のことであって、まだ子どもである彼にはどうすることも出来ない問題なのだと今なら解るのに。

その時は、ユウくんの気持ちを汲んであげられなかった。


でも、その時ユウくんが言ったのだ。

「忘れないよっ。忘れるもんかっ!その証にハルカの誕生日には毎年、必ず手紙を書くよっ。誕生日おめでとうってカードを贈るっ。そうしたら信じられるか?待ってられるか?ハルカ?」

「……うん…」


そんな約束を、ユウくんは律儀にも守ってくれているのだ。



「そう言えば、その子って今は何処に住んでるの?」

母が何となく浮かんだ疑問を口にするように聞いてきた。

「それが…。実は知らないんだよね」

「えっ?そうなの?どこ地方へ行くとか、そういうのも聞いてないの?送られてきた封筒とかに向こうの住所とか書いてあるんじゃない?」

「それが…。何も書いてないんだ」

「えー?何か不思議だね?」

母は首を傾げた。

(それは、ホント。私が知りたいくらいだよ…)


毎年届くカードは封筒に入れられてはいるものの、切手などは貼られておらず。宛先も『ハルカへ』のみで、ウチの住所さえも書かれてはいなかった。

そう。それは直接家のポストに投函されたものなのだ。
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