ペチュニアの恋文
(でも、このタイミングで来るなんて…な)

皮肉というか、何と言うか。


もうすぐ遥の誕生日だ。

そして、今年の誕生日は遥にとって…。


「………」


先程、店内で母と会話している遥を陰から眺めていた。

昔と変わらない笑顔。

(花が好きなのも、変わらないんだな…)

あんなに瞳をキラキラさせて。


遥の出て行った方向を眺めたまま立ち尽くしている蒼に。

「友達だったんなら、あのしおり…プレゼントしてあげたら良かったのに。きっと喜ばれたわよ?」

嬉しそうにしおりを眺めていた少女を思い出し、母は何気なく言ったのだが、その言葉に蒼は表情を曇らせた。

「もう…昔の話だよ」

蒼は小さく息を吐くと、中断していた店の仕事へと無言で戻っていくのだった。

その何処か物憂げな息子の背中を、母は首をかしげながらも特に何も聞かずに見つめていた。





それから数日後。

とうとう誕生日当日がやって来た。


「遥、この後待ち合わせの場所に行くの?」

「うん、一応…。本当に来るかは分からないけどね」

学校帰り、朋ちゃんと駅までの道のりを歩いて行く。

「大丈夫!きっと来るよっ」

「そうかな?そうだと良いけど…」

「でもさ、まさかこないだ話してた『約束の日』が、こんなにすぐのことだったなんてビックリだよ」

その言葉に「えへへ…」と笑う。

実は、朋ちゃんには自分の誕生日が今日であることを昨日伝えたばかりだった。
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