ペチュニアの恋文
本当は泣き顔なんか見たくなかった。

遥には、いつだって笑っていて欲しい。

穏やかに…。

あたたかな日差し下、風に揺れている花のように。


「もう…随分と前のことだもんね。そんな約束…信じて、いつまでも待ってる方がおかしいのかも知れないね。蒼くんの言う通り…忘れるよ、今日のこと。ユウくんにも、伝えておいてくれるかな?」

涙を零しながらも、無理に笑顔を作って微笑んでいる遥の姿が胸に突き刺さる。

「それとね、『ありがとう』って伝えて欲しい。毎年、誕生日を忘れないでいてくれて…。そして、プレゼントも…ありがとうって」

その言葉に蒼はピクリ…と反応した。知らず拳に力がこもる。

だが、そんな蒼の様子に気付くことなく、遥は頬を伝う自身の涙を慌ててゴシゴシと手の甲で拭った。

「ヤダな。私だけ、いつまでも子どものままで…。二人に笑われちゃうよねっ。こんなだから…二人に、嫌われちゃうんだ…ね…っ…」

最後は言葉にならず、再び涙に声を詰まらせた。


「……遥…」





『ユウくんは来ない』


その現実はショックだったけれど、わりとすぐに認めることが出来た。

それは来ないことを想定して、自分の中で事前に心の準備が出来ていたからかも知れない。

でも…。

昔、蒼くんと会えなくなった時のように、曖昧なまま終わりにしたくなかった。

『忘れるんだ』

その一言で簡単に忘れられる程、私にとって小さな約束ではなかったから。

だから、くじけそうになる自分を奮い立たせ、蒼くんの背中を追い掛けた。
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