ペチュニアの恋文

五年前…。


「遥に、手紙を書いたんだ。蒼…これを遥に渡してくれないかな?」


病床で弱々しい笑顔を浮かべて、ユウは言った。

手には封筒。手に取らずとも判る程に僅かに厚みがある。

「約束…してんだ。遥の16歳の誕生日に、あの公園で会うって…」

だから、その日に行くことが出来そうもない自分に代わって行って欲しい。ユウは平然とそんなことを言ってのけた。

「馬鹿言うなよ。お前が約束してるんなら、ちゃんとお前が行かなくちゃ意味がないだろう?ユウの責任だよ。ちゃんと責任を果たせよ」

そんなに簡単に諦めるようなことを言って欲しくなかった。

頼みを突っ返すようで悪いとは思いながらも、そんなことをそう簡単に引き受けることは出来ない。

だが、ユウはそんな俺の気持ちも理解しているかのような微笑みを浮かべて「無茶言うなよ」と言った。

「自分のことは、一番オレが分ってるつもりだよ」


手には、もうずっと…毎日のように繋がっている数本の点滴の管。

元気に走り回っていた頃の面影などない、すっかり痩せた身体。こけた頬。

見ていて痛々しい位だった。

瞳の輝きは未だ失っていないが、身体がいうことをきかなくなってきたと先日ぼやいていたのを覚えている。

きっと手紙を書く作業でさえ容易ではなく、それなりに時間を要したに違いない。

そのユウの気持ちを無駄にしたくはない。けれど…。


「もしも遥が約束の場所に来なかったら、これは処分してくれて構わないからさ」
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