ペチュニアの恋文
再び目の前に差し出された封筒に視線を落とす。

「そんなこと…」

ある訳ない。

遥なら、きっとユウとの約束を忘れる筈はないだろう。そう思いながらも。

「頼むよ」

そう念を押されて、結局渋々それを受け取った。

やはりかなりの枚数の手紙が入っているのか、その封筒は重みがあった。

でも、その重みと同様に数年先のこととはいえ、気まで重くなって来る。

「…どんな顔して渡せばいいんだよ」

思わず本気で愚痴がこぼれた。


俺はユウの病気を知って以来、ずっと遥を避けて来た。

遥のことを好きだというユウに少しでも入院までの間、二人の時間を作ってあげたくて気を使ったというのもある。だが、何より遥にユウの引っ越し等について問われたら、嘘をつき通す自信がなかったのだ。

公園へ行かなくなったことで遥に会う機会もなくなったが、もしも偶然会ったところで既に自分たちの間に出来た溝は大きく、会話など出来る自信もなかった。

そんな俺の心情を読み取るかのように、ユウが笑顔を見せる。

「問題ないよ。蒼なら…」

「適当なこと言って…。勝手なんだから」

何の根拠もない。ただの気休めである。

でも、そんな俺のぼやきにも笑顔を見せているユウに「仕方ないな…」と、ワザとらしく溜息を吐いた。

「とりあえず今は俺が預かっておいても良いけど、基本的にユウは遥との約束を守るつもりでいなきゃダメだぞ」

「もちろん」

そう答えたユウは、こんな会話のやり取りでも疲れたのか目を伏せた。
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